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蟲師 10

10巻にして、ついに降幕!
最終巻です。
もともと1篇ごとの作品集のようなものなので、
どこで終わりというのは明確じゃなかったかもしれませんが、
何だかとても感無量です。


光の緒
「天衣無縫」という言葉からインスピレーションを得られたお話。
天衣無縫とは、物事に技巧などの形跡がなく、自然なさま。
天人・天女の衣には縫い目がまったくないことから、
文章や詩歌がわざとらしくなく、自然に作られていて巧みなこと。
また、人柄が飾り気がなく、純真で無邪気なさま、天真爛漫なことや、
物事が完全無欠である形容にも用いられる。
オーガニックコットンを扱うお店の店名になってたりもしますが、
オーガニック系が好きな方には、神のような言葉ですね。

ゲンは、ケンカとなると年上相手だろうと構わず、
癇癪持ちで、少々父親の手には負えない子に育っていた。
母親は体調が優れず、別のところで暮らしていた。

そんなゲンの前に、突如ギンコが現れる。
ゲンが赤子の頃に縁があったという。
とても体が弱いと聞きつけたギンコが、特別な衣を着せた。
それは、いろんな色がゆらゆら動いて、まるで生きているような、不思議な衣。
この子が生きる力を取り戻すまで、そのままにするようにと言い、
立派に育った頃に様子を見に来ることになっていたようだ。

立派どころか、元気があり過ぎる程になったゲンを見て、
ギンコは「蟲切り」が必要だと判断する。
ゲンは蟲を見る性質が強くなりすぎた。
そうすると、子供のうちは特に、
自分で自分を思い通りにできなかったりする。
怒るとコントロールできなくなるのも、これが原因だろう。

そこで語られたのは、当時の父親も知らなかった真実。
それは母親本人から口止めされていたことだった。
ギンコはゲン父子の家に来る前に、母親の「ゆい」に会い、あの衣を見た。
それは、ゆいが紡いだ糸で縫ったものだった。

ゲンを産んだ時、生死を彷徨ってから、急に見えるようになった糸。
その糸は蟲師が「妖質」と呼ぶモノで、赤子のうちは生きるのに必要な要素。
普通はあり得ないが、ゆいはその妖質を薬も使わず、指で紡げるようになっていた。
ゆいは知らず、ゲンをなでていたら、ゲンから妖質の糸が抜けて、
生きる力をなくしてしまった…。
そのために、妖質の糸で紡いだ衣を着せた結果、ゲンは人一倍たくましく育った。

しかし、少々妖質を持ちすぎてしまったため、普通なら蟲師が薬で抜けるものが、
ゲンには効かなくなってしまっていた。
ゲンの糸を抜けるのは、ゲンの母親くらいだというが…。

子供を産むと体質が変わる人がいるという事から、母子の話になったそうです。
私自身、出産の経験はないのですが、身の回りでお母さんになった人たちを見て、
ただただすごいなぁと感心するばかりです。
血を分けた命とはいえ、お腹の中に別の生命体が宿って、それが出てくるんですからね!
自分のことなんてどうでも良くなってしまうくらい、生活も考え方も変わるよね。


常の樹
ある地に、1本の大きな木がありました。
その木は永い間、ふもとの里に生きる人々の暮らしを静かに見守っていました。

幹太は知らない土地を渡り歩くような仕事を生業としていたが、
ある時、両足が木のようになって、うごかなくなってしまった。

先頃、幹太は李に似た赤い実を食べていた。
それは「覚木(さとりぎ)」という蟲。
木の内部に宿り、養分を得るモノだが、
木の本体が危機に陥ると、赤い花のようなモノをつけ、
やがて一つの実に姿を変えて木から離れる。
その実には、木の記憶が封じ込められている。
そして、獣や鳥に喰われると、その体内に巣食い、
宿主が木に近づくのを待つ。
宿主が木に長い間触れていると、木と融合し動けなくさせ、
やがて完全に木と同化させてしまう。
それが幹太の足の状態。
残念ながら、治す術は見つかってないそうだ。

その木はギンコにも縁のある木でした。
ギンコがまだ幼く、ワタリと行動を共にしてた頃。
幼いイサザと共に長老から聞かされた話。
この木には長い事「覚木」が棲んでおり、
それまでに二度ほど赤い花を付けた事があるという。
一度目に咲いたのは550年ほど昔、この地に大地震のあった時。
地が割れ、根から倒れそうになったが、何とか生き延びたという。
二度目は170年ほど前、この木に雷が落ち、傷を負った。
しかし、近くの里の者達が懸命にその傷を治し、再びこの木は生き長らえた。
里の者らはそれまで、山を拓くのにこの木を伐ろうとしたが、
どうやっても伐れなかった。
それで人々はこの木を畏れ、やがて神木と祀り、大事にしたのだという。

そんな木がとうとう伐られてしまったのは、今から15年前。
当時、里の大半の者が、杣人として、木を育て売る事を生業としていた。
そんな中、山火事が起き、唯一無事だったこの大杉を伐ることに…。

これは木の報いなのか?
それに答えるギンコの言葉が印象的でした。

草木は怒ったりしない。
でも、何も感じないわけでも、何もしないわけでもない。
ある種の木は、害虫が大量に湧くと、その葉から毒を出して、自分の身を守る。
草木は自ら動けない。
だが、そのぶん周囲の変化を敏感に感じ取り、
時にそれに応じて自らを変える術を持つ。
あれほど伐れなかった木が、何故その時は伐れたのか。
それはこの木が自ら、その身を伐らせるよう変化させたせいなのかもしれない。
傷ついた山全体のために。

よく台風や大地震などのニュースの中で、大きな木が倒れている場面を見ることがあります。
その痛々しい光景に胸を痛めることがあるのですが、
こんな風に木が過ごした長い時に感慨深い思いを寄せるからなのでしょう。
木が見つめた長い記憶を知ることができたら…、と思わずにはいられませんでした。


香る闇
既視感=デジャヴの話。
そんなよくありがちな経験も、この作品では蟲の仕業。

それは「廻陋(かいろう)」という蟲で、
花のような匂いを出し、虫やけものを誘い込む、
漆黒の筒状の蟲である。
そして誘い込んだ獲物の時間を、円環状に歪めると言われている。
だとすれば、廻陋に囚われたものは、
同じ時間をくりかえし生かされる事になる。

カオルはもう、同じ人生を何度も生きているのだろう。
それは誰にも確かめる術はない。
だが、この先のどこかでまた、同じように廻陋に出くわす。
気づかずにまたその中をくぐってしまえば、
また時間はくりかえし、同じ人生を味わう。
既視感を持つ者の記録はあるが、
その者の人生のすべてを調べる事など到底できない。

ギンコはこう警告する。
廻陋に囚われた者が、思うように過去を変えたという話は聞かない。
それに既視感を持ったということは、
今までのように昔に戻る事はできないかもしれない。
何度もくぐるうちに、廻陋と同化してしまうかもしれない。

過去を変えたい、やり直しができたらどんなにいいか、
というのは私もよく思います。
でも逐一そこで立ち止まってたらキリがないんですよね。
それよりも、この先どんな未来になるかを考えた方が良い。

花の匂いといえば、春先の沈丁花や秋の金木犀が、街中でふっと香ってくると、
何とも言えない気持ちになります。


鈴の雫

ギンコは、突然いなくなった妹を捜し続ける青年、葦朗と出会う。
妹はカヤといい、生まれた時から頭に草が生えていた。
それは抜いても抜いても、また生えてきた。
歩けるようになると、カヤはよく一人で家を抜け出した。
そんなカヤのお目付け役になっていたので、兄の葦朗。
カヤは不思議なくらい、この山のことをよく知っていた。
けれど、時々妙なことを言った。
「戻ってこいって言ってる」と。

ある日も葦朗はカヤの手を引いていたのだが、
そろそろ家に帰ろうとした時、突然吹いてきた風とともに、
カヤはいなくなってしまった。

ギンコには既にあたりがついていた。
カヤが山のヌシに選ばれたということ。
蟲師の読者には、すっかりおなじみのキーワードですが、少しおさらい。

蟲師の間では、こういう豊かな土地を光脈筋といい、
そういう場所には山を統べるヌシが必要となる。
それに選ばれたモノは、生まれつき、体に草が生えている。
ヌシとは、山の生命の、すべての均衡を保つモノ。
常に山全体とつながり、統制をとっている。
いわば山全体の礎であり、個としての生は無い。

ヌシに選ばれたカヤは、里に戻ることはできない。
ヌシが山を離れれば、山は崩れる。
里心がつけば、ヌシとしてあり続けることはできない。
そうすれば山は崩れ、葦朗たち人間も生きられなくなる。

ヒトがヌシになるのは、そうあることではない。
ヒトには知恵も心もあり、山のヌシになどなりきれない。
いつからヒトは自然の理から外れてしまったのだろう。
そうはいってもヒトは、自然がなけれあば生きられず、
自然の一部に過ぎないのに。

最終話ですが、蟲師の根本的なテーマがここに集約されていると思いました。

ところで、タイトルにも含まれている鈴の音は、
神の声の模倣だという説があるそうです。
作中でも、ヌシが生まれる時に、山で鈴のような音が鳴り響くシーンが印象的でしたが、
澄んだ美しい鈴の音を想像して、確かにそうかもしれないと思いました。
鈴の音も1種類ではなく、物哀しく聞こえたり、表情があるんですよね。


とうとう幕を降ろした蟲師。
全10巻に及ぶ作品たちを通して、とても大切なことに気付かされたり、
自然の摂理に触れることで、とても癒されていました。
それらは全て、ヒトが忘れがちだけど、決して忘れてはいけないもの。
そして、この作品ではとても丁寧に描かれていた、五感を使った表現。
改めて、五感が研ぎ澄まされる感じがしました。

私の人生の中で、とても大事な作品。
これからは時々は読み返しては、ヒトとしての原点を取り戻したいと思います。




蟲師(10) (アフタヌーンKC)

蟲師(10) (アフタヌーンKC)

  • 作者: 漆原 友紀
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/11/21
  • メディア: コミック



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